えの顔をしてやっている。のん気な底知れぬ沼のような怪奇さがただようている。そこの外のところに大きな賭博場が二つあり、インテリや金持ちなどが集まるところと、またいまひとつは無頼漢などがあつまって賭博に来るところがあるということであった。それをみせてあげるという話であったが、インテリのも無頼漢の方もどちらもみられなかった。しかしそういう怪奇な家の表を通って来たのであったが、仏租界はそんなに危険ではないらしいという話であったので、毎日大抵租界のしきりを越えてゆくのであった。

 私は自動車のちょうど真中あたりに座をしめていた。そして私の両側に同行の人がのっていた。もう一台の方は男の人たちが乗っていた。二台ずつで毎日市中をみて歩いていたのであった。翌日、自動車でゆくと、大へんな雑|閙《とう》があり、そういうところに何ということであろう餓死人が倒れたまま放っておいてあるのだった。私はそれを何ということもなくとっくりとみていたかったが、歩いていると、それはただそれだけではなしに、実はそこにもここにもといったぐあい[#「ぐあい」は底本では「ぐあいい」]にあるのであって、誰も私のように物珍しくみている
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