林は真中が池である。裏手の方に門があり、太湖石があり、笹があり、芭蕉があり、苔もここのはさびて白緑色を呈していて、陽のかげに生じているのは群青色になっている。仇英の描く群青や緑青、また斑をもったきれいな苔を生じた太湖石は、実物をみて大いにこれを美化したものであることがわかった。実際の太湖石は南画の花鳥の傍らにあるかわいらしいものよりも、はなはだ大きなものが多かった。人がくぐれるほどの大きな穴があいている。ついだのもある。はなはだ大きなのは中途で継いであるらしい、そんな形跡がみえた。
ここの富豪の婦人の部屋などもみせてもらった。朱の色の梯子、欄干があるなど奇麗なものだった。二階の床は木を用いているが、階下の部屋は石だたみで、冬は火の気がないと寒いものだろうと私にはおもえた。門を入るとまた次の門がある。幾つもの門をくぐってやっと主人の居間に達する。支那の富豪たちが外敵に対してどれほど深い用心をしているかが、これをみただけでもよくわかる気がする。ずっと遠いむかしからのながいながい不安の歴史が、おのずと彼らにこのような警戒心を備えさせてしまったのであろう。
支那人は酒をのんでも決して酔い倒
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