手でさびしいところなので、まだあぶないものとみえて、軍の方から十四、五人の兵隊さんがトラックに機関銃をつんで物々しく護衛をして下すった。このためか、幸いに敵の襲撃は受けず、つつがなく参詣することが出来たのであった。玉泉寺には大きな池があった。池はきれいなすみ透った水を湛えていた。大きな鯉が幾十尾とも知れず泳ぎまわっていた。寺の坊さんが鯉に餌をやってくれと言ってキビ藁のようなものをもって来たので、それを鯉にやった。その坊さんはちょうど南画の山水の中にいるような坊さんで、鯉にやった餌と同じものをたべているのだということであった。そこから自動車で山手をのぼると雲林院へつくのである。ここには五つ六つくらいの女の子の案内人がいる。いずれも貧家の子であった。それに日本語がいつ習いおぼえたものかうまいものである。私たちが自動車を降りるとその女の子がいきなり走って来て「今日は」と言う。「御案内いたします」なぞと言う。ここには男の子や大人の案内人もいるが、それを出しぬいてこの女の子が一番かせぐらしい。自分が先に立ってどんどん案内してゆく。寺の奥の方には防空壕があった。今はそれも名物のひとつになってしまっ
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