余齢初旅
――中支遊記――
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)しげの家《や》という

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)雑|閙《とう》があり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぐあい[#「ぐあい」は底本では「ぐあいい」]
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        海を渡りて

 年々、ずいぶんあわただしい生活がつづいている。こんな生活をいつまでもつづけていてはならないとおもう。
 年中家にいて、電話がかかって来る。人がたえず訪ねてくる。ひっきりなしである、とてもめまぐるしい。その騒然雑然たるさまはとても世間の人たちには想像がつくまいとおもう。
 世間の人々は、私の生活がこんなにわずらわしいとは思っていないにちがいない。もっとおちつき払った静かな深い水底のようにすみ切った生活とでも思っているにちがいない。しかし実際はそれとおよそかけはなれた生活である。
 私は何とかしなければならないとかねがね考えていた。それはむろん健康に障るばかりではなしに心にゆとりがなくなるからである。そこでさる人のすすめに従って田舎の方へ家をつくった
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