た調子で話しかけている。非常に絵が好きらしく「東京からはよく絵かきさんが来る」とか「京都の方からもいろんな人が来るし、宇田|荻邨《てきそん》さんや中村岳陵さんなぞも来たことがある」などとなかなかよく知っている。山道にはところどころに清水が湧き出ているが、こうした処にゆくと馬はきまって立止りゆっくり水を飲む。せきたてられてもぶたれても、別にあせる模様もなくどこまでものんびりである。ここかしこの山間渓間にはまだ残雪が深く、おくれ咲きの山桜や山吹とともに何ともいわれぬ残春の景趣を横溢させている。山の声は甲高い馬子や一行の話声と小鳥のやさしい語らいと、時々人気に驚いて熊笹をゆすって逃げ去る兎くらいのものでまったく閑寂そのものである。ひる頃天狗の湯に着いた。麓を出てから二時間後のことであった。
[#地付き](昭和十年)
底本:「青帛の仙女」同朋舎出版
1996(平成8)年4月5日第1版第1刷発行
初出:「京都日出新聞」
1935(昭和10)年7月30日
※初出時の表題は「北穂天狗へ湯の旅」です。
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2009年1月29日作成
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