をみて、階下へ降りてくると、そこに扇子、唐紙などを売っていますので、それを求めて、席上画をたのむという風で、何処の誰か知らない人に扇子を出されて、席上画を描いたものでした。
 さてこの研究会である画会では、作品批評などはありませんでした。社中の人々は出品する以前に、先生からお手本を拝借して、それで描いて、みて頂くのです。そこでお手本ですが、松年先生は、夜など来客と話しながらよく絵を描いていられました。ひくい大きな机に唐紙の連落ちをひろげ、焼墨もあたらずに、山水画を描いていられましたが、三分の一くらいかけると、墨がかわかないので、唐紙のほごを上にのせてクルクルと巻いて、次のを描くという風で、こうして幾日かたつと幾枚かの絵が完成するのです。それが画室の隅に積み重ねられてあって、私どもが、「お手本を」と言うと、「その積んでいる中からお選《よ》り」と言われる。私どもは、その中から好ましいのを選り出してお手本にするのです。
 勿論お手本ばかりにたよっていたのではありません。よいお天気の日など、急に先生が、「これから賀茂あたりへ写生に行こう」と言われて社中のもの幾人か先生のお供をしたものでした。途
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