りもせずにおりましたが、近頃はそれと反対に「余技の下手なものは本技も下手だ」というまるで逆な気持ちになって来ました。
よく考えてみると、優れた才能ある人は、やはり余技においても上手のようです。
余技といえば、九条武子夫人を憶い出します。
九条武子夫人は、松契という画号で、私の家にも訪ねて来られ、私もお伺いして絵の稽古をしていられました。
武子さんの、あの上品な気品の高い姿や顔形は、日本的な女らしさとでもいうような美の極致だと思います。
あんな綺麗な方はめったにないと思います。綺麗な人は得なもので、どんな髷に結っても、どのような衣裳をつけられても、皆が皆よう似合うのです。
いつでしたか、一度丸髷に結うていられたことがありました。たいていはハイカラで、髷を結うていなさることは滅多にないので、私は記念に、手早く写生させて貰いましたが、まことに水もしたたるような美しさでした。
「月蝕の宵」はその時の写生を参考にしたのです。もちろん全部武子夫人の写生を用いたという訳ではありませんが……
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大いなるものゝ力にひかれゆく
わが足もとの覚つかなしや
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