線というものは日本画に取って重要な役目を持っているものでございまして、色彩を施すという技量よりも線を描くという技量の方がどの位重きをなしているか分りません。

 前に申します通り、線なくしては日本画は成立ちません。彩色をしなくとも絵は画に成り得ますけれども、線なくしては画に成り得ません。成り得ない事はないとしても、線を全然無視する事は出来ないものであります。
 そればかりか、実を申しますと、線だけで最も巧妙に出来た日本画は、まず色彩を施す必要のない程その画が貴い価値のあるものであろうと思います。こういう画には却って色彩を施すことはむだな事だという外はございません。私などでも往々そういう場合がございます。自分でやや満足に線が描けたと思います時には、どうもそれに彩色するのが惜しくて堪らないことがございます。
 これほど私どもは線に重きをおいて居りますが、今の若い画家達……新進の人ばかりではございません、中には私等古参の方までが、とんとこの線ということに放縦になりまして、むやみとこてこて色を塗ることばかりを能事としている方が多くなったように見受けられます。

 日本画の線は、その走り具合や、
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