重たさや軽さによって、物体の硬軟や疎密は言うに及ばず、物その物の内面的実質までもその気持ちを如実に出すの妙があるのです。それでありますのに今の日本画家の内の多分の人は、この線の研究や鍛錬を軽んじて色を塗る事にばかり苦心をしていられるのは、日本画の持つ独自の特色を喪うものであると思われまして、誠に残念に思うところでございます。
殊に若い画家達の描いた画……あの細い無造作で不作法な錬金を連ねたような拙ない線から成る、そして色彩でごまかしたような画、そんな画を見ますと私達は純真の日本画の為に涙が零《こぼ》れるような心持になります。
その人達に言わせますと、色彩の塗抹は線が持ってくる効果よりも更に深く大きなものだと言うかも知れませんが、私は日本画は線があって初めて色彩を持つもので、色彩を先にすべきものだとは思いません。線の長短や緩急が互いに交錯して、物象の内面外面を現わす妙味は、到底言葉に云い尽せません。私が今の若い人達にお願い致したい事は、もう少しこの線に重きをおいて下すって、日本画の持つ特色を永く伝えるように努力せられるようされたい事でございます。
[#地付き](大正十二年)
底本:「青帛の仙女」同朋舎出版
1996(平成8)年4月5日第1版第1刷発行
初出:「大毎美術月報」
1923(大正12)年5月号
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2009年1月29日作成
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