楠公夫人
上村松園
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)甘南備《かんなび》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)河内国|甘南備《かんなび》
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自分の思う絵を、私は機運がくると、たちまちそれの鬼となって、火の如き熱情を注いで――これまでにずいぶんと数多くの制作をして来た。
展覧会に発表したそれら大作の数だけでも一百枚にのぼるであろう。
描きたい絵はまだまだ沢山ある。展覧会に出品する画材は、前もって発表するということは興を削ぐので、それだけは私の胸中にそれを制作する機運の来るまで発表は出来ないけれど、いまここで語っていいものに楠公夫人の像がある。
三年ほど前に神戸湊川神社の宮司が私の宅に見えて、
「楠公夫人の像を描いて奉納してもらいたい」
と言われた。
これには訳のあることで、実は――と宮司の語られるところによれば、
「湊川神社に社宝ともなるべき新しい絵がないので、そのことを横山大観先生に話したところ、大観先生は、それでは自分は楠公の絵をかいて奉納しよう、と仰言って、すぐ制作にかかられ、先年立派な絵が完成し社への奉納式もすんだ
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