き、古来多くの詩はそこの美しさをたたえている。それほどの名所でありながら、いまはきたない。江水も画舫も思う存分きたない。そこへ安物店の食べもの屋が出ているのである。
大きな傘を立てただけの店で、油揚げのようなものを売っている女。私は次々とスケッチして歩いた。
支那の人達は悠々としているという話は度々聞いている。雲雀を籠にいれて野山に出かけ、それを籠から出して大空に鳴かせあって日を暮らすという話などよく聞く。それと同じ気持なのだろう。こういう雑踏した街で、しかも角の真中に女が坐りこんで着物などのつくろいをしている。四辺《あたり》はどうあろうともそこだけはぽかぽかと陽当りよく、余念もない女の針がひかっているのである。
物静かな京都の街なかでもこんな風にお前はお前、私は私といった風景はみられはしないであろう。
そういえは此処の自動車は何時間でも人を待っていてくれる。上海のホテルの六階から見おろした表通りに、それこそ何百台と数えられる自動車がずらりと並んで駐車しているのを思いだす。あれだけの自動車がいつ客を乗せる番に廻り合わせるのかと思っただけで気が揉めるであろうのに、支那人は悠々と待
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