想い出
絵の道五十年の足跡を顧みて
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)剰《あまつさ》え

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)筆|胼胝《だこ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](昭和十六年)
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 土田麦僊さんが御在世の折、よく私の筆|胼胝《だこ》が笑い話になりましたものです。
 無理もないことで、私が絵筆を執り始めてから、今日まで丁度丸々五十年になります。今年六十七歳になりまするが、この五十年間を、私は絵と取組んで参った訳になります。
 明治八年四月二十三日が私の生まれました日で、父は二ヶ月前の二月に亡くなりましたので、その時分の事ゆえ、写真など滅多になく、私は全然父の顔を知りません。「お父さんはどんな人」と言って尋ねますと、「あんたによう似た人や」と、親類のおばさん達が、笑いながら教えて呉れたものです。姉妹ただ二人きりで、私は母と姉を、父とも母とも思って成長致しました。
 明治十四年、七つの時、仏光寺の開智校と申す小学校に入学致しましたが、この時分から私は絵が好きで、四条に野村という
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