れがおかしくもなんともなかつたものでした。
いまは、万事が複雑になつて来ましたので、さういふ風に、寄附画を楽しんで描くなどといふ事は出来なくなつて終ひました。今にして見れば、以前のさういふ気持が何かしらなつかしまれるのです。
八
古い縮図帖を見ますといろいろなものが出て来ます。こみ入つた、殿上人の管絃をしてゐるさまや、貫之の草仮名や竹杖会の古い写生会のスケツチや、松篁が、乳を呑んでゐる、幼い顔や、これといつてとりとめのない記憶を辿つてゐるやうなものです。
幼いころの松篁は、まるいまるい顔でした。それがだんだん年とともに、こんなに長い顔になりました。しかし、眉毛のところや、目のあたりが、いまだにそのころのおもかげを残してゐるやうです。
中には、四郎さん(栖鳳子息)の幼いころのもあります。門を這入つたところが、いまとはちがつて、竹杖会の稽古場になつてゐました。そこで、八田高容さんや、井口華秋さんなどが、大作をしてゐられました。その椽先へ四郎さんが出て来て、遊んでゐられる。それを待つてゐるあひだに、一寸写しておいたものでした。
扇雀が、まだ小役をしてゐたころの写生も残つて
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