軽女
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)側室《そばめ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)通り言葉[#「通り言葉」に傍点]に
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 数多い忠臣義士物語の中に出てくる女性のうちで、お軽ほど美しい哀れな運命をになった女性は他にないであろう。
 お軽は二階でのべ鏡という、――通り言葉[#「通り言葉」に傍点]に想像される軽女には、わたくしは親しみは持てないが、(京都二条寺町附近)の二文字屋次郎左衛門の娘として深窓にそだち、淑やかな立居の中に京娘のゆかしさを匂わせている、あのお軽には、わたくしは限りない好ましさを感じるのである。

 山科に隠栖し、花鳥風月をともにして、吉良方の見張りの眼を紛らわしていた大石内蔵助は、しかし、それだけでは、まだまだ吉良方の警戒をゆるめさせることの出来ないのを悟って、元禄十五年の春ころから、酒に親しみ出し、祇園に遊んで放縦の日々を送るようになり、果ては最愛の、貞淑のほまれ高い内室までも離別して、豊岡の石束家へ返してしまった。
 その後の遊興三昧のさまは目にあまるものがあった。同志の人々でさえ、内
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