き上がったものより、途中さまざまな失敗のあったものにかえって良いものができることを度々経験しております。制作にあたってこの気魄を持ちつづけ得られれば、決して後に見て悔いるような作品をつくることはございません。私がいささかでもこの気魄と克己心を持っておりますのは、母から受けついだ血であり、母の励ましのお陰であろうと思っております。
母
母と申せばこんなことがございました。ある年、文展の締切が近づきますのに、どうしたことか何としても構想がまとまらず、だんだんに粘《ねば》ってきてしまいました。今、思えは明治四十二年、文展第三回の時でした。気持はいらいらむしゃくしゃしてまいります。そうすると、一層、まとまらなくなります。始終、そばにある母には、私のその心持がすぐわかりました。そして言うのに、「今年は出品をやめなさい」。私は毎年出品してきたのに、今年だけ出さないのは残念と思いますので、なかなかそんな気持にはなりません。ジリジリしながらも、まだ粘っておりますと、母の曰《いわ》くには、
「文展はまあ、皆の画を並べている店みたいなものじゃないか。大空からその店を眺めるつもりになってごら
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