。その簾には、花鳥の絵が実に麗しく、彩色してありましたので、頭にはっきり残りました。
ある年、あの簾を配して何か人物を描いてみようと思いつきました。いろいろの人物をあの記憶の簾の前に立たせて見て、もっとも心に適《かな》ったのが母子《おやこ》の姿でした。これが、昭和九年、帝展出品の「母子」になったのでございます。
「序の舞」
昨年(昭和十一年)、文展に出品いたしました「序の舞」は、品のよい令嬢の舞い姿を描きたいものと思って描き上げたものでございます。仕舞のもつ、古典的で優美で端然とした心持を表わしたいと思ったのでございます。そこで嫁を、京都で一番品のよい島田を結う人のところへやりまして、文金高島田を結ってもらいました。そして婚礼の時の振袖を着てもらい、いろいろな仕舞の形をさせ、スケッチいたしました。途中で、中年の令夫人にしようかとも思いましたので、早速嫁に丸髷を結ってもらい、渋い着物を着て、立ってもらったこともございました。私の謡の先生の娘さんがよく仕舞を舞われますので、いろいろな仕舞の形をしてもらって、それも、スケッチいたしました。
いよいよ令嬢で、形は序の舞のあの
前へ
次へ
全28ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング