ように展覧会等も度々あるというわけには参りませんので、よい絵を見る機会がなかなかありません。人からどこそこにこういうよい絵があると聞きますと、それこそ、千里も遠しとせず拝見に上がりました。また、名家の売立などにも、よいものがありますので、必ず見に参りました。博物館へはお弁当持ちで一日出かけたものです。そして必ず写生帳に写しとって来ました。お寺にはよい絵がありますので京都はもちろん奈良までよく出かけました。こうして、支那日本の古画を丹念に模写しました。
 博物館などにゆくと、貫之の美しいかながきなどがありますが、またむずかしい字を巧《うま》く、くずし方などあると、絵の横に書きとって来ることがありました。これが自然手習いになったようです。ある大名の売立に行くと、美事な貫之のかながきの巻物がありましたので、一、二行うつすつもりで書き始め、とうとう巻物全部をうつし取ってしまいました。傍の人に、あなたの方がうまいなどと、ひやかされたことがあります。若い時から、折々に描きためた、こうした縮図本が、今私の手許に一山ほどになっています。苦心して見つけ、手を労して写した古画など、二十年、三十年のものでも
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