な不満なものがあるからだともいえましょう。

     若い女性の画家志願に就いて

 男性に較べると女性が絵の修業をするのには、特別にいろいろな困難が伴います。私の家にも何十人かの若い女性《おんな》の方が稽古に見えるが、その中に一人や二人はすべてをすてて一生を絵で立て通そうと、本人も決心し親達もその気になってる人がないでもないが、一般に言えば女性だと年頃になったりすると家庭の事情や何かで、どうしても初志を立て通すことが難しくなり易いようです。
 一芸を立て通すとなれば男性《おとこ》の方でもそうに違いないが、殊に女性だとより以上に意志が強くないと駄目だと思います。懸命の努力勉強も、誰にだって負けるものかという固い決心強い意志も、常人以上の人でないと、若い志願者からの相談に会っても容易に勤められもせず、中途半端では却って気の毒な結果に陥りたがるものです。よく私共のところにも遠方の見ず知らずの若い人達から手紙が来たりして、どんな苦労でもするから台所で働かして貰いながら絵の勉強をさしてくれなどと言って来られるが、たいてい返事も上げないことにしている。それも二度三度となると返事をしないわけにも行かないこともあるが、京都や大阪あたりの人達だと尚更、帝展などを見てそそり立てられて、自分の天分などのことも知りもしないで、ただもう軽い浮《う》ッかりした虚栄心に駆られて、画家になりたいというような気を起こす人も大分あるようですが、一人前になるまでには長い年月もいることだし、それには相当の資力も費《かか》るし、決して軽々しい思い立ちがすぐものになると思っては間違いです。――私はそういう意味の手紙を書いて、今までにも若い女性の方の画家志願者を大分思い止まらしたことがある。

 全く女性の画道修業は難しい。随分言うに言われぬ忍耐が要《い》る。私などにしても、これまでに何十度|忌《い》ま忌《い》ましい腹の立つことがあったか知れない。それを一々腹を立てて喧嘩をしていたんではモノになりません。凝ッと押し堪えて、今に見ろ、思い知らしてやると涙と一緒に歯を食いしばらされたことが幾度あったか知れません。全く気が小さくても弱くてもやれない仕事だと思います。

     余技に対する解釈に就いて

 私はたいてい身体は丈夫な方です。これは老母譲りだろうと思っているが、老母は中風で昨今は寝込んでいる。けれど
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