る――すくなくとも、狂人自身には対者に向けている視線なのであるが、相手方から見れば、その視線は横へ外れていて空虚に向けられている如く感じるのである。
狂人の絵を描く上において、この「空虚の視線」が、なかなかにむつかしいものであると思ったことであった。
岩倉村から帰ると、わたくしは祇園の雛妓に髪を乱させて、いろいろの姿態をとったり甲部の妓に狂乱を舞って貰って、その姿を写生し参考としたが、やはり真の狂人の立居振舞を数日眺めて来たことが根底の参考となったことを思うと、何事も見極わめる――実地に見極わめることが、もっとも大切なのではなかろうかと思う。
まして、芸術上のことにおいては、単なる想像の上に立脚して、これを創りあげるということは危険であるように思うのである。
底本:「青眉抄・青眉抄拾遺」講談社
1976(昭和51)年11月10日初版発行
1977(昭和52)年5月31日第2刷
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2008年4月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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