応挙と其の時代が好き
上村松園

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]
−−

 別に取り立てて感想もありませぬが、私は応挙と其の時代に憧憬を持つて居るものです。あの落着いた立派な作風、あのガツシリと完成した描法など真に好いと思ひます。今の様に忙しくては到底大作などは出来ませぬが、あの時代の画家は実にのんびりと制作に従つて居て心行くまで研究を積まれたものと思はれます。慥か今から三十年も前の話でありますが、如雲社と云ふ画家の集合展覧会がありました。毎月十一日を期日として別に誰派の区別もなく自分の好いたままに一点でも二点でも作品を持ち寄つてそれを陳べて互ひに見合つたものです。其の当時は景年さんでも無造作な風体でやつて来られるし、栖鳳さんや春挙さんなどもお若い頃で、会場の真中には赤毛氈を布いて火鉢と茶位の設備ではありますが、よい絵の前では坐つて離れなかつたり、画論に華を咲かせたり、本当に悠暢なものでした。それから考へ合しても、応挙の時代が想像されて床しい極みであります。(談)[#地付き](大正十四年)



底本:「青眉抄その後」求龍堂
   1986(昭和61)年1月15日発行
初出:「藝術社会」新田書房
   1925(大正14)年
入力:鈴木厚司
校正:川山隆
2008年5月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
終わり
全1ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング