、と言われました。

 ガス燈も電燈もなかった時代のことで、ランプを往来にかかげて夜店を張っている。その前に立って、芝居の役者の似顔絵や、武者絵などを漁っている自分の姿をときどき憶い出すことがありますが、あの頃は何ということなしに絵と夢とを一緒にして眺めていた時代なので私には懐かしいものであります。
 芝居の中村富十郎の似顔絵など、よしかん[#「よしかん」に傍点]の店先に並んでいる光景は、今でも思い出せばその顔の線までハッキリと浮かび上って来るのです。

        北斎の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵

 母は読み本が好きで、河原町四条上ルの貸本屋からむかしの小説の本をかりては読んでいられたが、私はその本の中の絵をみるのが好きで、よく一冊の本を親子で見あったものでした。
 馬琴の著書など多くて――里見八犬伝とか水滸伝だとか弓張月とかの本が来ていましたが、その中でも北斎の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵がすきで、同じ絵を一日中眺めていたり、それを模写したりしたもので――小学校へ入って間もないころの
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