半月あまりも御所に御駐輦《ごちゅうれん》に相成ったことでございました。私は三室戸伯のお導きを得まして、作を携えまして、先般御所に参候いたし、滞りなくこれをお納め申し上げましてございます。

 最初、この作品は表装をつけて差し出すものかと存じましたが、三室戸伯は「単に作品のみの御下命であってみれば、とにかくこのままで差し出すがよろしかろう。その上陛下お好みの御表装を仰せ出さるるやも計られぬ、その時はまたその時のことといたしては如何」とのお言葉でしたから、ある表装師に相談いたしまして、蒔絵軸の仮巻《かりまき》に仕立て、白木の箱に納め、それを白木の台に載せて持参いたし、御所の御書院において御側近の方々に御面会申し上げ、たしかにお納めいたしましたから、いずれ高貴の御覧に入ったことと存じます。

 この御下命を得ました当時は、皇太后陛下がまだ皇后陛下でいらせられた際のことであり、考えてみますと、筆者の私としましても深い感慨に打たれまして、まことに恐懼の念に堪えないしだいでございます。

 さもあらばあれ、これにて私も、やっと重い責任を果たしたという喜びでただ今いっぱいでございます。私はこれからゆ
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