めて、種々の話をさせて、それを筆記した『甲子夜話』といふ随筆で見たが、なか/\面白い。全体その時分の真面目は正史よりも、却つてこんな飾り気のない随筆などで分るものだ。
 この話は、実に面白いではないか、右筆といえば、今の秘書官だが、宰相の片腕ともなるべきこの右筆が、孔子の名さえ知らないといえば、その人の学問も大抵は知れる。之に較べると、今の秘書官などは、外国の語も二つや三つは読めるし、やれ法律とか、やれ経済とか、何一つとして知らないものはない。然るに、不思議のことは、孔子の名さえ知らない右筆を使つた時の政治より、万能膏の秘書官を使ふ時の政治が、格別優つても居ないといふ事だ。畢竟これも政治の根本たる、至誠奉公といふ精神の関係だらうよ。



底本:「日本の名随筆 別巻95 明治」作品社
   1999(平成11)年1月25日第1刷発行
底本の親本:「亡友帖・清譚と逸話 〔復刻原本=海舟全集第十巻〕」原書房
   1968(昭和43)年4月20日
入力:ふろっぎぃ
校正:浅原庸子
2006年2月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http:
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