しらべさせて、種もしかけもないことを証明した。そして自分のはなれわざは、極度に精確な算数によるものであって、精神集中作用が完全にいっているかぎり、万が一にも仕損じる気づかいはないと断言したそうだ。
しかしかりにも人間の生命が精神集中ひとつで保たれている場合、それはずいぶん不安定な懸釘にかかっているものだということもできるのだ。
さてこの貼りだされたポスターを見ると、わが精神異常者は少し元気が回復してきた。かれはそこになんらか新しい刺激が自分を待っているにちがいないという確信をもって、「今に見ろ」と友だちに公言もした。で、彼は初日の晩から観客席に陣取って、熱心にこの曲乗りを見物することになった。
彼はちょうど軌道の降り口のまっ正面に座席をひとつ取って、そこをたった一人で占領した。他人がまじると注意力が散漫になるのをおそれて、わざとひとりじめにしたのである。
もっともきわどい曲乗りは、たった五分間で終った。はじめ、白い軌道の上に黒い点がひとつひょっこりあらわれたと思うと、それがおそろしい勢で驀進し、旋回し、それから大跳躍をやった。それですべてが終っていた。まるで電光石火ともいうべき
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