」
曲芸師が一声叫ぶと、ささえていた二人の助手がさっ[#「さっ」に傍点]と左右にわかれた。
その瞬間にかの精神異常者は、もっとも自然な仕方で起ちあがると、つとあとずさりをして、座席の他の一端へ歩いて行った。と、はるか上の軌道でおそろしい事件が起こった。曲芸師のからだがとつぜん宙にはねとばされてまっさかさまに墜落し、同時にからっ走りした自転車がもんどり打って、観客席のまっただなかへ落ちこんできた。
観客はアッと叫んで総立ちになった。
そのとき精神異常者は、規則正しい身振りをひとつやって、外套を着て、袖口でシルクハットの塵をはらいながらさも満足げに帰っていった。
底本:「フランス怪談集」河出文庫、河出書房新社
1989(平成元)年11月4日初版発行
入力:山田芳美
校正:しず
2001年8月13日公開
2006年1月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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