買いに出かけるとは、これは、あまりにひどすぎる。怠け者にちがいない。こんな生活は、いかん。なんにもしないで、うろうろして、女房も見かねて、夕食の買い物をたのむ。よくあることだ。たのまれて、うん、ねぎを五銭だね、と首肯し、ばかなやつ、帯をしめ直して、何か自分がいささかでも役に立つことがうれしく、いそいそ、風呂敷もって、買い物に出かける。情ない、情ない。眉ふとく、鬚《ひげ》の剃り跡青き立派な男じゃないか。私は、多少|狼狽《ろうばい》して、その本を閉じ、そっと本棚へ返して、それからまた、なんということもない。頬杖ついて、うっそりしている。怠けものは、陸の動物にたとえれば、まず、歳《とし》とった病犬であろう。なりもふりもかまわず、四足をなげ出し、うす赤い腹をひくひく動かしながら、日向《ひなた》に一日じっとしている。ひとがその傍を通っても、吠えるどころか、薄目をあけて、うっとり見送り、また眼をつぶる。みっともないものである。きたならしい。海の動物にたとえれば、なまこであろうか。なまこは、たまらない。いやらしい。ひとで、であろうか。べっとり岩にへばりついて、ときどき、そろっと指を動かして、そうして
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