も、ちゃんと抜からずマスタアしている筈である。現に、この小説の中にも、随所にずるく採用して在る。私も商人なのだから、そのへんは心得ている。所謂《いわゆる》、おとなしい小説も、これからは書くのである。どうも、こんなこと書きながら、みっともなく、顔がほてって来て仕様がない。でも、これも、私のいい友人たちを安心させるために、どうしても、書いて置きたく思うのである。純粋を追うて、窒息するよりは、私は濁っても大きくなりたいのである。いまは、そう思っている。なんのことは、ない、一言で言える。負けたくないのである。
 この作品が、健康か不健康か、それは読者がきめてくれるだろうと思うが、この作品は、決して、ぐうたらでは無い。ぐうたら、どころか、私は一生懸命である。こんな小説を、いま発表するのは、私にとって不利益かも知れない。けれども、三十一歳は、三十一歳なりに、いろいろ冒険してみるのが、ほんとうだと思っている。戦争と平和は、私にはまだ書けない。私は、これからも、様々に迷うだろう。くるしむだろう。波は荒いのである。その点は、自惚《うぬぼ》れていない。充分、小心なほどに、用心しているつもりである。この作品
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