のは、あなただ。この子は、情のふかい子でした。この子は、いつでも弱いものをかばいました。この子は、私の子です。おお、よし。お泣きでない。こうしてお母さんが、来たからには、もう、指一本ふれさせまい!」
に[#「に」はゴシック体]、憎まれて憎まれて強くなる。
たまには、まともな小説を書けよ。おまえ、このごろ、やっと世間の評判も、よくなって来たのに、また、こんなぐうたらな、いろは歌留多《かるた》なんて、こまるじゃないか。世間の人は、おまえは、まだ病気がなおらないのではないかと、また疑い出すかも知れないよ。
私のいい友人たちは、そう言って心配してくれるかも知れないが、それは、もう心配しなくていいのだ。私は、まだ、老人でない。このごろそれに気がついた。なんのことは、ない、すべて、これからである。未熟である。文章ひとつ、考え考えしながら書いている。まだまだ自分のことで一ぱいである。怒り、悲しみ、笑い、身悶《みもだ》えして、一日一日を送っている始末である。やはり、三十一歳は、三十一歳だけのことしかないのである。それに気がついたのである。あたりまえのことであるが、私は、これを有り難い発見だと
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