玩具の汽車、蚊帳《かや》、ペンキ絵、碁石、鉋《かんな》、子供の産衣《うぶぎ》まで、十七銭だ、二十銭だと言って笑いもせずに売り買いするのでした。集る者は大抵四十から五十、六十の相当年輩の男ばかりで、いずれは道楽の果、五合の濁酒が欲しくて、取縋《とりすが》る女房子供を蹴飛ばし張りとばし、家中の最後の一物まで持ち込んで来たという感じでありました。或いは又、孫のハアモニカを、爺《じい》に借せと騙《だま》して取上げ、こっそり裏口から抜け出し、あたふた此所《ここ》へやって来たというような感じでありました。珠数《じゅず》を二銭に売り払った老爺《ろうや》もありました。わけてもひどいのは、半分ほどきかけの、女の汚れた袷《あわせ》をそのまま丸めて懐へつっこんで来た頭の禿《は》げた上品な顔の御隠居でした。殆《ほと》んど破れかぶれに其の布を、(もはや着物ではありません。)拡げて、さあ、なんぼだ、なんぼだと自嘲の笑を浮べながら値を張らせて居ました。頽廃《たいはい》の町なのであります。町へ出て飲み屋へ行っても、昔の、宿場のときのままに、軒の低い、油障子を張った汚い家でお酒を頼むと、必ずそこの老主人が自らお燗《かん
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