色いヘッドライトが浮び、ゆらゆらこちらへ泳いで来ます。
「あ、バスだ。今は、バスもあるのか。」と私はてれ隠しに呟《つぶや》き、「おい、バスが来たようだ。あれに乗ろう!」と勇んで友人達に号令し、みな道端に寄って並び立ち、速力の遅いバスを待って居ました。やがてバスは駅前の広場に止り、ぞろぞろ人が降りて、と見ると佐吉さんが白|浴衣《ゆかた》着てすまして降りました。私は、唸《うな》るほどほっとしました。
佐吉さんが来たので、助かりました。その夜は佐吉さんの案内で、三島からハイヤーで三十分、古奈温泉に行きました。三人の友人と、佐吉さんと、私と五人、古奈でも一番いい方の宿屋に落ちつき、いろいろ飲んだり、食べたり、友人達も大いに満足の様子で、あくる日東京へ、有難う、有難うと朗らかに言って帰って行きました。宿屋の勘定も佐吉さんの口利きで特別に安くして貰い、私の貧しい懐中からでも十分に支払うことが出来ましたけれど、友人達に帰りの切符を買ってやったら、あと、五十銭も残りませんでした。
「佐吉さん。僕、貧乏になってしまったよ。君の三島の家には僕の寝る部屋があるかい。」
佐吉さんは何も言わず、私の背中をど
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