のままで、店の用事をして居ましたが、やがて、来る若者、来る若者、すべて派手な大浪模様のお揃いの浴衣《ゆかた》を着て、腰に団扇《うちわ》を差し、やはり揃いの手拭いを首に巻きつけ、やあ、おめでとうございます、やあ、こんにちはおめでとうございますと、晴々した笑顔で、私と佐吉さんとに挨拶しました。其の日は私も、朝から何となく落ちつかず、さればといって、あの若者達と一緒に山車を引張り廻して遊ぶことも出来ず、仕事をちょっと仕掛けては、また立ち上り、二階の部屋をただうろうろ歩き廻って居ました。窓に倚《よ》りかかり、庭を見下せば、無花果《いちじく》の樹蔭で、何事も無さそうに妹さんが佐吉さんのズボンやら、私のシャツやらを洗濯して居ました。
「さいちゃん。お祭を見に行ったらいい。」
 と私が大声で話しかけると、さいちゃんは振り向いて笑い、
「私は男はきらいじゃ。」とやはり大声で答えて、それから、またじゃぶじゃぶ洗濯をつづけ、
「酒好きの人は、酒屋の前を通ると、ぞっとするほど、いやな気がするもんでしょう? あれと同じじゃ。」と普通の声で言って、笑って居るらしく、少しいかっている肩がひくひく動いて居ました。妹
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