《じゃたい》みたいに天さのぼっての、ふくれた、ゆららと流れた、のっそらと大浪うった、ぐるっぐるっと渦まえた、間もなくし、火の手あ、ののののと荒けなくなり、地ひびきたてたて山ばのぼり始めたずおん。山あ、てっぺらまで、まんどろに明るくなったずおん。どうどうと燃えあがる千本万本の冬木立ば縫い、人を乗せたまっくろい馬こあ、風みたいに馳《は》せていたずおん。(ふるさとの言葉で)
たった一言知らせて呉れ! “Nevermore”
空の蒼《あお》く晴れた日ならば、ねこはどこからかやって来て、庭の山茶花《さざんか》のしたで居眠りしている。洋画をかいている友人は、ペルシャでないか、と私に聞いた。私は、すてねこだろう、と答えて置いた。ねこは誰にもなつかなかった。ある日、私が朝食の鰯《いわし》を焼いていたら、庭のねこがものうげに泣いた。私も縁側へでて、にゃあ、と言った。ねこは起きあがり、静かに私のほうへ歩いて来た。私は鰯を一尾なげてやった。ねこは逃げ腰をつかいながらもたべたのだ。私の胸は浪うった。わが恋は容《い》れられたり。ねこの白い毛を撫でたく思い、庭へおりた。脊中の毛にふれるや、ねこは、私の小指
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