外はみぞれ、何を笑うやレニン像。

 叔母の言う。
「お前はきりょうがわるいから、愛嬌《あいきょう》だけでもよくなさい。お前はからだが弱いから、心だけでもよくなさい。お前は嘘《うそ》がうまいから、行いだけでもよくなさい。」

 知っていながらその告白を強いる。なんといういんけんな刑罰であろう。

 満月の宵。光っては崩れ、うねっては崩れ、逆巻き、のた打つ浪のなかで互いに離れまいとつないだ手を苦しまぎれに俺が故意《わざ》と振り切ったとき女は忽《たちま》ち浪に呑まれて、たかく名を呼んだ。俺の名ではなかった。

 われは山賊。うぬが誇をかすめとらむ。

「よもやそんなことはあるまい、あるまいけれど、な、わしの銅像をたてるとき、右の足を半歩だけ前へだし、ゆったりとそりみにして、左の手はチョッキの中へ、右の手は書き損じの原稿をにぎりつぶし、そうして首をつけぬこと。いやいや、なんの意味もない。雀の糞を鼻のあたまに浴びるなど、わしはいやなのだ。そうして台石には、こう刻んでおくれ。ここに男がいる。生れて、死んだ。一生を、書き損じの原稿を破ることに使った」

 メフィストフェレスは雪のように降りし
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