列車
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)手巾《ハンカチ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|輛《りょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)スハフ[#「スハフ」は横組み]
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一九二五年に梅鉢工場という所でこしらえられたC五一型のその機関車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三|輛《りょう》と、食堂車、二等客車、二等寝台車、各々一輛ずつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨物三輛と、都合九つの箱に、ざっと二百名からの旅客と十万を超える通信とそれにまつわる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の日も風の日も午後の二時半になれば、ピストンをはためかせて上野から青森へ向けて走った。時に依って万歳の叫喚で送られたり、手巾《ハンカチ》で名残を惜まれたり、または嗚咽《おえつ》でもって不吉な餞《はなむけ》を受けるのである。列車番号は一〇三。
番号からして気持が悪い。一九二五年からいままで、八年も経っているが、その間にこの列車は幾万人の愛情を引き裂いたことか。げんに私が此の列車のため、ひどくからい目に遭わされた。
つい
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