わ、歯をいたみ、夏わ、なにやらかやら、それよりわ、なかぬ日とてなかりき。おろか、なりけるよ。すゑの見こみも、すくなし。
○同三十日。同よめる。
  じよや(除夜)のかね。百三つまでわ。かぞへけり。
  われ、らいねんわ、二十七さいなり。めでたくかしく。
  てんほう八。とり。
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     あとかき

 どうであったろうか。読者、果して興を覚えたであろうか。私は、諸君に、告白しなければならぬ。これは、必ずしも、故人の日記、そのままの姿では無い。ゆるして、いただきたい。かれが天稟の楽人ならば、われも不羈《ふき》の作家である。七百頁の「葛原勾当日記」のわずかに四十分の一、青春二十六歳、多感の一年間だけを、抜き書きした形であるが、内容に於《おい》て、四十余年間の日記の全生命を伝え得たつもりである。無礼千万ながら、私がそのように細工してしまった。勾当の霊も、また、その子孫のおかたも、どうか、ゆるしていただきたい。作家としての、悪い宿業《しゅくごう》が、多少でも、美しいものを見せられた時、それをそのまま拱手《きょうしゅ》観賞していることが出来ず、つい腕を伸ばして、べたべた
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