碧眼托鉢
――馬をさへ眺むる雪の朝かな――
太宰治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)執拗《しつよう》な

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)孔子|曰《いわ》く
−−

     ボオドレエルに就いて

「ボオドレエルに就いて二三枚書く。」
 と、こともなげに人々に告げて歩いた。それは、私にとって、ボオドレエルに向っての言葉なき、死ぬるまでの執拗《しつよう》な抵抗のつもりであった。かかる終局の告白を口の端《は》に出しては、もはや、私、かれに就いてなんの書くことがあろう。私の文学生活の始めから、おそらくはまた終りまで、ボオドレエルにだけ、ただ、かれにだけ、聞えよがしの独白をしていたのではないのか。
「いま、日本に、二十七八歳のボオドレエルが生きていたら。」
 私をして生き残させて居るただ一つの言葉である。
 なお、深く知らむと欲せば、読者、まず、私の作品の全部を読まなければいけない。再び絶対の沈黙をまもる。逃げない。

     ブルジョア芸術に於ける運命

 百姓、職工の芸術。私はそれを見たことがない。シャルル・ルイ・フィリップ。彼が私を震
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