中で、畏敬しているもの、メリメ。それから、辛《かろう》じて、フィリップ。その余は、名はなくもがなと思っている。淀野隆三、自らきびしく、いましめるところあってか、この本のあとにもさきにも、原作者フィリップに就いて、ほとんど語っていない。では私、駄馬ののっそり勇気、かれのまことの人となりを語らむ乎《か》。以下、私の述べることは、かれの骨格について也。かならず、かれの小説と、混同すべからず、かれのあの、きめこまやかなる文章と。
シャルル・ルイ・フィリップの友に語った言葉のはしはし。かれ二十五歳。「昨日、僕はけだものの如くに泣いた。」「僕たちお互いが大作家になれるかどうか、それは、わからないけれども、少くとも、僕、これだけは断言できる。僕らは、将《まさ》に生れんとする新しい時代に属しているということを。キリストの誕生に先だち、キリストの出現を言い当てた予言者。」「これは小さい声でいうことだが、僕は、ミケランジェロと老ダンテを思うと、からだがふるえる。それから、ニイチェ。」「僕は、ドストエフスキイの、白痴を読んだ。これこそ、野蛮人の作品というものだ。僕も書く。」かれは、ビュビュ・ド・モンパルナ
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