買ったものなんだ。」また歩き出して、「女ものらしいんだ。それに、色が変っちゃったものだから、なおさら、――」歩く元気も無くなった。
「大丈夫ですよ。そんなに目立ちません。」
「そうかね。」やや元気が出て来て、森を通り抜け、石段を降り、池のほとりを歩いた。
どうにも気になる。私も今は三十二歳で、こんなに鬚《ひげ》もじゃの大男になって、多少は苦労して来たような気もしているのであるが、やはり、こんな悪洒落みたいな、ふざけた着物を着て、ちびた下駄をはき、用も無いのに公園をのそのそ歩き廻っている。知らない人は、私をその辺の不潔な与太者と見るだろう。また私を知っている人でも、あいつ相変らずでいやがる、よせばいいのに、といよいよ軽蔑するだろう。私はこれまで永い間、変人の誤解を受けて来たのだ。
「どうです。新宿の辺まで出てみませんか。」友人は誘った。
「冗談じゃない。」私は首を横に振った。「こんな恰好で新宿を歩いて、誰かに見られたら、いよいよ評判が悪くなるばかりだ。」
「そんな事もないでしょう。」
「いや、ごめんだ。」私は頑として応じなかった。「その辺の茶店で休もうじゃないか。」
「僕は、お酒を飲ん
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