は思われないしろものばかりである。私は風呂敷包を、ほどきながら、さかんに自嘲した。
「デカダンだよ。屑屋《くずや》に売ってしまっても、いいんだけどもね。」
「もったいない。」家内は一枚一枚きたながらずに調べて、「これなどは、純毛ですよ。仕立直しましょう。」
見ると、それは、あのセルである。私は戸外に飛び出したい程に狼狽した。たしかに倉庫に置いて来た筈なのに、どうして、そのセルが風呂敷包の中にはいっていたのか、私にはいまもって判らない。どこかに手違いがあったのだ。失敗である。
「それは、うんと若い時に着たのだよ。派手なようだね。」私は内心の狼狽をかくして、何気なさそうな口調で言った。
「着られますよ。セルが一枚も無いのですもの。ちょうどよかったわ。」
とても着られるものではない。十年間、倉庫に寝かせたままで置いているうちに、布地が奇怪に変色している。謂わば、羊羹色《ようかんいろ》である。薄赤い縦横の縞は、不潔な渋柿色を呈して老婆の着物のようである。私は今更ながら、その着物の奇怪さに呆《あき》れて顔をそむけた。
ことしの秋、私は必ずその日のうちに書き結ばなければならぬ仕事があって、朝
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