ばかな事になったものだと、つくづく自分のだらし無さに呆れて、厭気がさしていた矢先に、霹靂《へきれき》の如くあなたが出現なさったので、それこそ、実感として「足もとから鳥が飛び立った」ような、くすぐったい、尻餅《しりもち》をついてみたい程の驚きを感じたのです。
 それから二日間、あの宿で、あなたと共に起居して、私は驚嘆の連続でした。なんという達者なじいさんだろうと、舌を巻いた。けれども私は、一度も不愉快を感じませんでした。とても豊富な明朗なものを感じました。外八文字も、狐も、あなたに対してはまるで処女の如くはにかみ、伏目になっていかにも嬉しそうにくすくす笑ったりなどするので、私は、あなたの手腕の程に、ひそかに敬服さえ致しました。やはり、あなたは都会の人で、そうして少し不良のお坊ちゃんの面影をどこかに持って居られました。けれども私には、それに依って幻滅を感ずるどころか、かえって悲しくなつかしく、清潔なものをさえ感じました。あなたは臆するところ無く遊びます。周囲の思惑を少しも顧慮せず、それこそ、ずっかずっか足音高く遊びます。そうして遊びの責任を、遊びの刑罰を、ちゃんと覚悟して、逃げも隠れもせず
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