、そのおでんやに食事をしに来て、その時、私は、年少の友人ふたりを相手に泥酔《でいすい》していて、ふとその女のひとに話しかけ、私たちの席に参加してもらって、私はそのひとと握手をした、それだけの附合いしか無かったのであるが、
「遊ぼう。これから、遊ぼう。大いに、遊ぼう。」
と私がそのひとに言った時に、
「あまり遊べない人に限って、そんなに意気込むものですよ。ふだんケチケチ働いてばかりいるんでしょう?」
とそのひとが普通の音声で、落ちついて言った。
私は、どきりとして、
「よし、そんならこんど逢った時、僕の徹底的な遊び振りを見せてあげる。」
と言ったが、内心は、いやなおばさんだと思った。私の口から言うのもおかしいだろうが、こんなひとこそ、ほんものの不健康というものではなかろうかと思った。私は苦悶《くもん》の無い遊びを憎悪する。よく学び、よく遊ぶ、その遊びを肯定する事が出来ても、ただ遊ぶひと、それほど私をいらいらさせる人種はいない。
ばかな奴だと思った。しかし、私も、ばかであった。負けたくなかった。偉そうな事を言ったって、こいつは、どうせ俗物に違いないんだ。この次には、うんと引っぱり
前へ
次へ
全17ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング