クを燔祭《はんさい》として献《ささ》ぐべし。
アブラハム、朝つとに起きて、その驢馬《ろば》に鞍《くら》を置き、愛するひとりごイサクを乗せ、神のおのれに示したまへる山の麓《ふもと》にいたり、イサクを驢馬よりおろし、すなはち燔祭の柴薪《たきぎ》をイサクに背負はせ、われはその手に火と刀を執《と》りて、二人ともに山をのぼれり。
イサク、父アブラハムに語りて、
父よ、
と言ふ。
彼、こたへて、
子よ、われここにあり、
といひければ、
イサクすなはち父に言ふ、
火と柴薪《たきぎ》は有り、されど、いけにへの小羊は何処《いずこ》にあるや。
アブラハム、言ひけるは、
子よ、神みづから、いけにへの小羊を備へたまはん。
斯《か》くして二人ともに進みゆきて、遂《つい》に山のいただきに到れり。
アブラハム、壇を築き、柴薪をならべ、その子イサクを縛りて、之《これ》を壇の柴薪の上に置《の》せたり。
すなはち、アブラハム、手を伸べ、刀を執りて、その子を殺さんとす。
時に、ヱホバの使者、天より彼を呼びて、
アブラハムよ、
アブラハムよ、
と言へり。
彼言ふ、
われ、ここにあり。
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