んな気持が思い当らぬこともない。いよいよこれは、僕の地下道行きは実現性の色を増して来たようだわい。」
上野公園前の広場に出ました。さっきの四名の少年が冬の真昼の陽射《ひざし》を浴びて、それこそ嬉々として遊びたわむれていました。私は自然に、その少年たちの方にふらふら近寄ってしまいました。
「そのまま、そのまま。」
ひとりの記者がカメラを私たちの方に向けて叫び、パチリと写真をうつしました。
「こんどは、笑って!」
その記者が、レンズを覗《のぞ》きながら、またそう叫び、少年のひとりは、私の顔を見て、
「顔を見合せると、つい笑ってしまうものだなあ。」
と言って笑い、私もつられて笑いました。
天使が空を舞い、神の思召《おぼしめし》により、翼が消え失せ、落下傘《らっかさん》のように世界中の処々方々に舞い降りるのです。私は北国の雪の上に舞い降り、君は南国の蜜柑畑《みかんばたけ》に舞い降り、そうして、この少年たちは上野公園に舞い降りた、ただそれだけの違いなのだ、これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌《ようぼう》には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうして、内気
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング