輯部《へんしゅうぶ》の好意ある取計らいであったのかも知れませんが、率直に言いますと、そのウイスキイは甚《はなは》だ奇怪なしろものでありました。私も、これまでさまざまの怪しい酒を飲んで来た男で、何も決して上品ぶるわけではありませんが、しかし、ウイスキイの独り酒というのは初めてでした。ハイカラなレッテルなど貼《は》られ、ちゃんとした瓶《びん》でしたが、内容が濁っているのです。ウイスキイのドブロクとでも言いましょうか。
けれども私はそれを飲みました。グイグイ飲みました。そうして、応接間に集って来ていた記者たちにも、飲みませんか、と言ってすすめました。しかし、皆うす笑いして飲まないのです。そこに集って来ていた記者たちは、たいていひどいお酒飲みなのを私は噂《うわさ》で聞いて知っているのでした。けれども、飲まないのです。さすがの酒豪たちも、ウイスキイのドブロクは敬遠の様子でした。
私だけが酔っぱらい、
「なんだい、君たちは失敬じゃあないか。てめえたちが飲めない程の珍妙なウイスキイを、客にすすめるとは、ひどいじゃないか。」
と笑いながら言って、記者たちは、もうそろそろ太宰も酔って来た、この勢い
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