がら、あまり口惜《くや》しくて、ぐしゃと嗚咽《おえつ》が出て、とまらなくなり、お茶碗《ちゃわん》も箸《はし》も、手放して、おいおい男泣きに泣いてしまって、お給仕していた女房に向い、
「ひとが、ひとが、こんな、いのちがけで必死で書いているのに、みんなが、軽いなぶりものにして、……あのひとたちは、先輩なんだ、僕より十も二十も上なんだ、それでいて、みんな力を合せて、僕を否定しようとしていて、……卑怯《ひきょう》だよ、ずるいよ、……もう、いい、僕だってもう遠慮しない、先輩の悪口を公然と言う、たたかう、……あんまり、ひどいよ。」
などと、とりとめの無い事をつぶやきながら、いよいよ烈《はげ》しく泣いて、女房は呆《あき》れた顔をして、
「おやすみなさい、ね。」
と言い、私を寝床に連れて行きましたが、寝てからも、そのくやし泣きの嗚咽が、なかなか、とまりませんでした。
ああ、生きて行くという事は、いやな事だ。殊《こと》にも、男は、つらくて、哀《かな》しいものだ。とにかく、何でもたたかって、そうして、勝たなければならぬ[#「勝たなければならぬ」に傍点]のですから。
その、くやし泣きに泣いた日から、
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