て一座みな興が覚《さ》め、誰も笑わず、しかめつらになった。
眉山ひとり、いかにも楽しげな笑顔で、
「だって、教えてくれないんですもの。」
「トシちゃん、下にお客さんが来ているらしいぜ。」
「かまいませんわ。」
「いや、君が、かまわなくたって、……」
だんだん不愉快になるばかりであった。
「白痴じゃないですか、あれは。」
僕たちは、眉山のいない時には、思い切り鬱憤《うっぷん》をはらした。
「いかに何でも、ひどすぎますよ。この家も、わるくはないが、どうもあの眉山がいるんじゃあ。」
「あれで案外、自惚《うぬぼ》れているんだぜ。僕たちにこんなに、きらわれているとは露知らず、かえって皆の人気者、……」
「わあ! たまらねえ。」
「いや、おおきにそうかも知れん。なんでも、あれは、貴族、……」
「へえ? それは初耳。めずらしい話だな。眉山みずからの御託宣ですか?」
「そうですとも。その貴族の一件でね、あいつ大失敗をやらかしてね、誰かが、あいつをだまして、ほんものの貴婦人は、おしっこをする時、しゃがまないものだと教えたのですね、すると、あの馬鹿が、こっそり御不浄でためしてみて、いやもう、四方八方
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