を出して、物干場へあがってお日様を険しく見つめ、思わず、深い溜息《ためいき》をいたしました。ラジオ体操の号令が聞えてまいります。私は、ひとりで侘びしく体操はじめて、イッチ、ニッ、と小さい声出して、元気をよそってみましたが、ふっとたまらなく自分がいじらしくなって来て、とてもつづけて体操できず泣き出しそうになって、それに、いま急激にからだを動かしたせいか、頸と腋下《わきした》の淋巴腺《りんぱせん》が鈍く痛み出して、そっと触ってみると、いずれも固く腫れていて、それを知ったときには、私、立って居られなく、崩れるようにぺたりと坐ってしまいました。私は醜いから、いままでこんなにつつましく、日蔭を選んで、忍んで忍んで生きて来たのに、どうして私をいじめるのです、と誰にともなく焼き焦げるほどの大きい怒りが、むらむら湧《わ》いて、そのとき、うしろで、
「やあ、こんなところにいたのか。しょげちゃいけねえ。」とあの人の優しく呟《つぶや》く声がして、「どうなんだ。少しは、よくなったか?」
 よくなったと答えるつもりだったのに、私の肩に軽く載せたあの人の右手を、そっとはずして、立ち上り、
「うちへかえる。」そんな
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