、もうもう私は、取り柄がない。屑《くず》だ。はきだめだ。もう、こうなっては、あの人だって、私を慰める言葉が無いでしょう。慰められるなんて、いやだ。こんなからだを、まだいたわるならば、私は、あの人を軽蔑《けいべつ》してあげる。いやだ。私は、このままおわかれしたい。いたわっちゃ、いけない。私を、見ちゃいけない。私の傍にいてもいけない。ああ、もっと、もっと広い家が欲しい。一生遠くはなれた部屋で暮したい。結婚しなければ、よかった。二十八まで、生きていなければよかったのだ。十九の冬に、肺炎になったとき、あのとき、なおらずに死ねばよかったのだ。あのとき死んでいたら、いまこんな苦しい、みっともない、ぶざまの憂目を見なくてすんだのだ。私は、ぎゅっと堅く眼をつぶったまま、身動きもせず坐って、呼吸だけが荒く、そのうちになんだか心までも鬼になってしまう気配が感じられて、世界が、シンと静まって、たしかにきのうまでの私で無くなりました。私は、もそもそ、けものみたいに立ち上り着物を着ました。着物は、ありがたいものだと、つくづく思いました。どんなおそろしい胴体でも、こうして、ちゃんと隠してしまえるのですものね。元気
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