持って来ましたよ。」
「ありがとう。」
何か考えているらしく、僕の差しだす干物には眼もくれず、やはり自分のコップをすかして見ていた。眼が坐っていた。もう酔っているらしいのである。僕は、小指のさきで泡のうえの虫を掬《すく》いあげてから、だまってごくごく呑みほした。
「貧《ひん》すれば貪《どん》すという言葉がありますねえ。」青扇はねちねちした調子で言いだした。「まったくだと思いますよ。清貧なんてあるものか。金があったらねえ。」
「どうしたのです。へんに搦《から》みつくじゃないか。」
僕は膝をくずして、わざと庭を眺めた。いちいちとり合っていても仕様がないと思ったのである。
「百日紅《さるすべり》がまだ咲いていますでしょう? いやな花だなあ。もう三月は咲いていますよ。散りたくても散れぬなんて、気のきかない樹だよ。」
僕は聞えぬふりして卓のしたの団扇《うちわ》をとりあげ、ばさばさ使いはじめた。
「あなた。私はまたひとりものですよ。」
僕は振りかえった。青扇はビイルをひとりでついで、ひとりで呑んでいた。
「まえから聞こうと思っていたのですが、どうしたのだろう。あなたは莫迦《ばか》に浮気じゃ
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