射し合っているようで、加速度的に僕は彼にこだわりはじめたのであった。青扇はいまに傑作を書くだろうか。僕は彼の渡り鳥の小説にたいへんな興味を持ちはじめたのである。南天燭《なんてんしょく》を植木屋に言いつけて彼の玄関の傍に植えさせてやったのは、そのころのことであった。
八月には、僕は房総《ぼうそう》のほうの海岸で凡《およ》そ二月をすごした。九月のおわりまでいたのである。帰ってすぐその日のひるすぎ、僕は土産《みやげ》の鰈《かれい》の干物《ひもの》を少しばかり持って青扇を訪れた。このように僕は、ただならぬ親睦《しんぼく》を彼に感じ、力こぶをさえいれていたのであった。
庭先からはいって行くと、青扇は、いかにも嬉しげに僕をむかえた。頭髪を短く刈ってしまって、いよいよ若く見えた。けれど容色はどこやらけわしくなっていたようであった。紺絣《こんがすり》の単衣《ひとえ》を着ていた。僕もなんだかなつかしくて、彼の痩せた肩にもたれかかるようにして部屋へはいったのである。部屋のまんなかにちゃぶだいが具えられ、卓のうえには、一ダアスほどのビイル瓶とコップが二つ置かれていた。
「不思議です。きょうは来るとたしか
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